祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
レイシア
夜半を過ぎたころから、空が暗くなっていった。
雲が月を隠し、星明かりも消し去った。
シルフィスとナーザは緩やかな斜面に広がる葡萄畑の中、馬を走らせていた。
狭かった道が不意に開けて、シルフィスは馬を止める。
坂の下に、レイシアの村があった。
空は黒い雲に覆われ、前方の集落は暗がりの中に沈んでいた。シルフィスは村を見下ろした視線を上げる。
黒々とした影が重なり合うようにいくつもの丘が見えた。
伝説では、あの丘のどこかで雷帝が殺されている。
「どこに向かえばいいと思う?」
隣に馬を並べたナーザに問う。
しばらく考える間があって、答えが返る。
「いちばん高い丘に、城があった。───たぶん、あれ」
指差した先に、闇を濃くしたような尖った影がある。
「小さく見えるけど、地下が広いんだ。ホルドトが魔法の儀式や実験をやる場所があって……もし、復活の魔法を使うなら……」
そこか。
シルフィスは馬を降りた。手頃な木に馬を繋ぐ。外套は枝にかけた。
ナーザは黙って同じようにする。
徒歩で坂を下り、村に入った。
静かだった。
……静か過ぎる。もう夜が明ける時刻なのに何の物音もない。農村ならば朝が早いはずなのに、人が動き出す気配がない。
空気に、ぬめるような嫌な感じがある。
無人なのかと思った。
けれど、そうではなかった。──それらを人と呼べるのなら。
雲が月を隠し、星明かりも消し去った。
シルフィスとナーザは緩やかな斜面に広がる葡萄畑の中、馬を走らせていた。
狭かった道が不意に開けて、シルフィスは馬を止める。
坂の下に、レイシアの村があった。
空は黒い雲に覆われ、前方の集落は暗がりの中に沈んでいた。シルフィスは村を見下ろした視線を上げる。
黒々とした影が重なり合うようにいくつもの丘が見えた。
伝説では、あの丘のどこかで雷帝が殺されている。
「どこに向かえばいいと思う?」
隣に馬を並べたナーザに問う。
しばらく考える間があって、答えが返る。
「いちばん高い丘に、城があった。───たぶん、あれ」
指差した先に、闇を濃くしたような尖った影がある。
「小さく見えるけど、地下が広いんだ。ホルドトが魔法の儀式や実験をやる場所があって……もし、復活の魔法を使うなら……」
そこか。
シルフィスは馬を降りた。手頃な木に馬を繋ぐ。外套は枝にかけた。
ナーザは黙って同じようにする。
徒歩で坂を下り、村に入った。
静かだった。
……静か過ぎる。もう夜が明ける時刻なのに何の物音もない。農村ならば朝が早いはずなのに、人が動き出す気配がない。
空気に、ぬめるような嫌な感じがある。
無人なのかと思った。
けれど、そうではなかった。──それらを人と呼べるのなら。