祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 そのまま全速力で走る。村を抜け、まばらな林を抜け、何度目かにふり返って死体の姿が全く見えないことを確認するまで。
 杖をトンと地面に突いて、シルフィスは呼吸を整えた。
 ナーザも膝に手を当てて肩で息をしている。
「正式な武術を習ったことがあるようだね」
 辺りに気を配りながら、そう、ナーザに聞いた。
 木々は疎らになっていた。視界が悪いのではっきりとは分からないが、この先に植物はほとんどなさそうだった。岩に張り付くような雑草と、低い灌木があるくらいなものだろう。
 つまり、目的の城に着くまで、身を隠す場所がないということだ。
「……イストのじいさんにね」
 ひとつ大きく息をして、ナーザは体を起こす。
「すごい年寄りなんだけど、強くてさ。荒くれの船乗りがケンカしてるのだって、簡単に捌くんだぜ。こないだ、ぎっくり腰しちゃって、寝込んでるけど」
「もしかして、ユーリーに頼んだ薬は……」
「そう。困るんだよな。メンバーは三人しかいないのに、ひとり休まれちゃうと……なんて言うほど、仕事、ないか」
 会話しながら、ナーザの様子を見る。不自然に口数が多いが、受け答えはきちんとできている。緊張ははっきりと伝わってくるが、手足の動きは滑らかだ。
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