祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 自分のもとへ戻ったリシュナを袋に入れて、ナーザは走り出す。
 おそらくは芝地の外庭だった場所を突っ切る途中、ナーザは足を止めて崩れた城を見上げ、方向を変えた。
 壁が完全に崩れ落ちている箇所があり、ナーザが幾つか瓦礫をどけると、狭い階段が現れた。
 地下へ降りる階段だ。ナーザは無言でその階段へ潜り込む。シルフィスも後に続いた。
 中は塔が地下へと伸びたような吹き抜けで、階段は壁に張りついて螺旋を描き下へと続いていた。シルフィスたちは、その階段を駆け降りる。
 暗くはなかった。吹き抜けの底の方が明るい。
 揺れる、炎の明るさだ。
 走りながら、シルフィスは手すりから下を覗き───思わず足を止めた。
 階段があと二巡り下った場所に、血の海があった。
 壁にぐるりと取り付けられた松明に、血に染まった広間が照らし出されている。
 床の中央には石の台が置かれ、人間の腕や足、頭蓋骨が並んでいる。夥しい血液が台から床へと流れ落ち、描かれた魔法陣を赤く染める。
 黒衣の男がシルフィスに背を向けるかたちで血の海の魔法陣に立っていた。切断された死体の上にローブとマントを置き、さらにその上に金色の何かを置く。
 シルフィスは階段の手すりをつかんで男の手元に目を凝らした。
 あれは───あれが、雷帝の遺髪か
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