祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 いったん地上に出たナーザは、瓦礫の上を身軽に移動して、崩れずに残ったドアを見つけ出した。
 ドアノブをつかんで押す。
 開かない。
 ナーザの手が光を帯びて鍵部分を突き破った。そして、体当たりでドアを開く。
 ドアの内部は廊下で、突き当たりに階段が見えた。
 壁の亀裂から差し込むわずかな光を頼りに、シルフィスとナーザは、階段を一気に駆け降りた。
 最深部は細長い通路のようだった。
 暗く、何も見えない。
 だが、暗闇の中、小さくオレンジ色の光が漏れてくる箇所がある。
 儀式の行われている広間の松明の光に違いない。
 光に向かって走った。走って、光の中に飛び込んだ。
 一歩先に広間に入ったナーザが、シルフィスの前でへたっと床に膝をついた。シルフィスも唇を噛みしめた。
 広間の中央にある石台の上で、ひとりの男がゆっくりと体を起こしていた。
 レイシアの村の動く死体のような、崩れかけた体ではなかった。青白い肌と光のない目───だが、完全な人間の形をしていた。
 金色の髪。整った精悍な顔立ち……確かにナーザに似ていた。ナーザの十数年後の姿だ。

 ──雷帝。
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