祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
「手があったら、引っ叩きたいところよ」
 と、リシュナはナーザをにらみつける。
「あんたはね、あたしの呪いを解くために生まれ変わってきたの。雷帝と刺し違えるため? 冗談じゃないわ。言ったわよね? 必ずあたしの呪いを解く、って」
「だ……けど……キス……っ」
「良かったじゃない。二百年前の想いが叶って。覚えちゃないかもしれないけど」
 ナーザは口を閉じた。しばらく黙って、ふいと立ち上がる。天井の端まで歩き、リシュナとシルフィスに背中を向けたまま言った。
「忘れちゃねーよ」
 ぶっきらぼうな声と口調。
「おまえを飛頭にしたとき、俺は、どんなかたちでもいいから、おまえを俺だけのものにしたかったんだ」
 リシュナの頬がさあとバラ色に染まった。
「俺は、もの心ついたときから、親にも寄るな化け物って言われてきたから、おまえも化け物にしちまえばって……」
 吐き出される言葉はそこで途切れ、ナーザは大きく深呼吸した。ふり向いて、乱暴に付け足す。
「二百年前の、雷帝の話だぞ!」
 それから、シルフィスを見た。
 眼差しは、強く、落ち着いている。刺し違える、と口走ったときの自棄の色はない。
「俺が雷帝を止める」
 その目で、もう一度、きっぱりと言い、人差し指を空へと向けた。
「シルフィスは、この天気、何とかしてくれない?」
 黒い雲が渦を巻き、稲妻が走る空を、シルフィスは見上げる。
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