祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 ナーザは言葉を続ける。
「さっきの魔法使いを捕まえて、空を操る魔法を止めさせて。雲が晴れて太陽の光を浴びれば───」
「雷帝が倒れる?」
 尋ねるシルフィスの声が、少しかすれた。
「あの魔法使いにホルドトほどの力が無ければ、雑魚の死体は崩れると思う。崩れるまでいかなくても、うまく動かなくなる。雷帝が倒れるかは、わからないけど、力は全然弱まるはずだよ。俺も晴れた日は電気を集めにくくなるけど、あっちは死体だから、俺以上にね」
「……なるほど」
 シルフィスも立ち上がった。そして、微笑んだ。───まだやれることがあるか。いけないな、年寄りは諦めが早くて。
「そうだね。雷帝に立ち向かえるのは君だけだ。魔法使い相手は、僕の領分だ」
「リシュナは、シルフィスと行ってくれる?」
 リシュナはハッとしてナーザを見る。が、
「魔法使いが入って行ったところ、地下にあるホルドトの実験室につながっているんじゃなかったっけ? 城の地下通路、リシュナなら、シルフィスを案内できるだろ?」
 そう言われて、リシュナはナーザからシルフィスへと視線を動かす。
 尋ねるように。
 シルフィスは頷いた。
「お願いするよ、リシュナ」
「じゃ、俺、行くわ」
 軽く言って、ナーザはふたりにくるりと背を向けた。
 肩越しに笑ってみせ、崩れかけた天井を飛び下りた。
 彼が『銀の子猫』で最初に見せた、にしし、の笑顔だった。
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