祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 ざわり、と黒いものが心に影をつくった。──やったって、できないものはできないだろう。魔法使いの一族の血を引いている? だからって、今までできなかったことが、急にできるなんてこと、あるわけがない。そんな無駄なことをしている間に、あの子は死ぬよ……。
 シルフィスは歯を喰いしばる。駆けつけた方が、まだマシだろうか、ナーザのところへ。──そうしてナーザとふたりで死ぬ。死体の群れと雷帝は、自分たちの屍を踏み越えて王都へ向かう。
 ……違う。それでは意味がない。
 黒いページをめくり続ける。
 天候を操る魔法。それとも、他の何か。何か、ないか。できること。『黒白の書』を盗み出すとき、書庫の封印錠は解けたじゃないか。
 ページを繰る手が止まった。
 封印錠は、解けた。
 魔法を無効にする自分。
 小さな光が見えた気がした。
 できるかもしれない。
 魔法を解く魔法。
 解呪なら。
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