祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 天を見上げたナーザの目に、頭上高く、光が波紋のように柔らかに広がり消え去るのが見えた。
 城の中で魔法使いに放った自分の雷撃が、魔法障壁の前に霧散したときとまったく同じ様子で。
 落ちた雷が地面に達する前に空中で何かに受け止められたのだ───と気づくまで、少しかかった。
 気づいて、愕然とした。
 魔法障壁? ──雷を防ぐほどの? そんな力、持っているのは……。
「つかまれ!」
 凛、と声が響いた。高らかな蹄の音とともに。
 視線を巡らすと、自分に向かって走ってくる馬が見えた。
 馬が近づく。ナーザは差し出された手をとっさに握り、乗り手の後ろに飛び乗った。
 乗り手はたちまち馬首を返す。
 落ちまいとして、ナーザは乗り手の腰に腕を回す。
 その、革の胴当てを着けただけの腰は、細かった。
「よく持ちこたえたぞ、少年」
 若い、女の声がして、乗り手がふり向く。
 驚いたのは、彼女が美しい女だったからではなく、肩越しの笑顔がシルフィスによく似ていたからだ。
 この人……。まさか……。
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