祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 雷鳴が轟いて、不意に頭がはっきりした。王が軍を率いてきたとしても。
「……この天気、何とかしなきゃだめだ……」
 口走るように言った。
 このままでは、二百年前の戦いがもっと酷いかたちで再現される。闇に守られた死体兵と雷雲を従えた雷帝が相手では、最悪、王軍の敗北もありえる。
 王の答えは、決然と力強かった。
「承知している」
 ナーザは王の背中を見ていた目を上げた。
 行く手に、人と馬の影が見えた。軍勢ではない。馬が三騎、その近くに人が三人立っている。
 王は彼らの前で馬を止めた。王が馬を降りる素振りを見せて、ナーザはあわてて先に降りたが。
 足にうまく力が入らず、ナーザはそのまま土の上に座り込んだ。
「障壁、あと二、三発しかもたねえぞ」
 いきなりそう言う声がして、ナーザはその声をふり返った。そして──。
「ホル……」
 ナーザは、絶句する。
 魔法使いの黒衣を身に纏った赤い髪の男は、胡散臭そうにナーザを視線で舐めた。
「ホルじゃねえ。ハル、だ」
「ハル、そんなことはいいから、早く操天魔法に取り掛かれ」
 王が赤い髪の魔法使いの前に立って言う。
「障壁はどうする」
「従軍の魔法使いたちが全員で支える手筈になっている。しばらくはもたせるだろう」
 男は、ふん、と鼻を鳴らした。黒いマントをばさっと翻し、指先を空に向ける。
「少し離れよう」
 と、王がナーザの腕を取った。ナーザは王に引かれるまま何歩か歩き、そこにまたへたっと腰を下ろす。
 体に力が入らない。ていうか、それより……。
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