祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 ……来る。
 今まででいちばん大きな音が弾けた。地が揺れた。
 魔法使いが、魔法の文字を紡ぐ動作を止めて、窪地を見た。
 死体の群れの中央に穴が開いたようになっていた。落ちた雷に、かなりの数の死体兵がなぎ倒されて。
 魔法使いは、窪地に向かって一歩を進めた。
「……雷帝は……?」
 雷帝の姿はそのまま馬上にあった。
 だが、右の腕がもげていた。雷帝も馬も、石像のように固まって動かない。
「……外したか」
 呟いたナーザを、魔法使いがふり向く。
 ナーザは仰向けに地面に転がった。
 もう本当に空っぽだ。雷帝を直撃することはできなかったけれど。
「あいつら、しばらくは動けねーよ。あとは、おまえ、何とかしろ」
「おまえ?」
 むっとしたように口を開きかけて、魔法使いの表情がふと変わった。何か不思議なものを見たように、ナーザを見つめた。
 が、
「ガキが偉そうな口きいてんじゃねえ」
 魔法使いは、すぐ、空へと向き直った。
「俺に命令していいのは、エディアとマクリーンだけなんだよ!」
 その指が、輝く文字を紡ぎ出す。
 ナーザはその文字を見つめ、唇を噛んだ。それは現世で彼が新たに培った光の魔力なのだろう。前世の彼が描いた文字は底の知れない闇だった。シルフィスの伯父だという魔法使いの力のレベルは知らないけれど。
 だめだ。その程度の光の魔力じゃ、ホルドトの術式は破れない。
 そのとき、だった。
 城跡から、白い光芒が黒い雲に向かって細く鋭く駆け上がった。
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