祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 けれど、リシュナの笑みには、何の翳りも差さなかった。
「大丈夫。輪廻の輪に戻るだけでしょ?」
 シルフィスは驚いて青い目を見開いた。──わかっていたのか。
 ややあって、シルフィスは低く尋ねる。
「……君は、それでいいの?」
「いいも悪いも。とっくにいなくなってる存在じゃない。それに……」
 声も表情もあくまで静かに、リシュナは語る。
「ナーザはいい子よ。あたしに縛られて生きたりしちゃ、いけないの」
 何も言えなかった、シルフィスは。リシュナの顔も見ていられなくなって、テーブルに視線を落とす。
 リシュナが、明るい声で言った。
「あんたがそんな顔をすることじゃないのよ」
「ごめん。こんな顔しかできない」
 気持ちを張っていないと、泣いてしまいそうだ。
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