祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 シルフィスはエディアの腕に力いっぱい抱きしめられていた。フードが落ちて、エディアはシルフィスの胸に顔を埋める。
「……雷帝の城の跡でおまえに抱きしめられたとき、私は本当に嬉しかったんだぞ」
 くぐもった声が震えていた。シルフィスは硬直したように何も動けず、ただエディアを見下ろして、その声を聞く。
「おまえを守るつもりで却って苦しめてしまったことが、ずっと辛かった。二年前、『魔法使い殺し』と呼ばれるギルド戦士の噂を聞いて、おまえじゃないかと思った。だけど、確かめることができなかった。私の顔など見たくないんじゃないかって……」
 そんな。
 ずっと会いたかった。
 けれど、会ってはいけないと思っていた。会わせる顔もなかった。
「……私が嫌いでなかったら、たまでいいから、顔、見せてくれないか。ふたりきりのきょうだいじゃないか」
 四年経ったのだ───ふと、実感した。
 僕の頭を無邪気に抱えたエディアの手は、今、僕の背に子どものようにしがみついている。僕が大きくなったのだ。見下ろす彼女の肩を、両腕で簡単にくるめるくらいに。
 彼女のそばで彼女を助けたいという願いは叶わない。けれど、彼女の影となって、行く手を平らかにし、その背を守ることはできるかもしれない。
 『青鷺の宿』のシルフィスとして。
 シルフィスの背中に回された手にぎゅうっと力がこもった。
「愛しているぞ、ディアナム」
 彼女の愛しているのは、たったひとりの『弟』なのだろうけど。
 シルフィスは、そっと、エディアを腕に包んだ。エディアの髪に頬を当てた。
「僕もだ、エディア」
 ずっと、君を、愛している。
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