祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 イストはナーザへと顔を向ける。
「──ナーザ、支度おし」
「あ、うん」
 ナーザはあわてて立ち上がった。
「明日中に戻ればいいよ。久しぶりに家でゆっくりしておいで」
 イストの言葉に、本当? と笑顔を見せ、ナーザは階段を駆け上がっていく。リシュナ、と誰かの名前を呼びながら。
 三人目のメンバーだろうか。
「ところで、お兄さん、せっかくのお茶が冷めるわ」
「あ、すみません」
 思わず謝って、シルフィスは席に戻る。
 胸が締め付けられてしまっていた。こんなところでマクリーンの名前をきくなんて……。
 ──マクリーン……。プラチナの髪を長く垂らし、静かに笑う魔法使い──。
 茶を飲んで心を落ち着け、シルフィスはナーザが駆け上がっていった階段へと目をやった。
 『雷帝』を名乗り、雷撃の異能は持っていても、ナーザは普通の、いや、むしろ、とても良い子な感じがする。が、感じがしました、では仕事にならない。ナーザはかの暴君とは無関係だと、客観的に確認しないと。
 ナーザはこれから自分の家に帰るようだから……。
 少し考え、店を出ることにした。外で彼を待ち、しばらく尾行して観察しよう。で、偶然を装って話しかける。お茶一杯で粘って、いつ降りてくるか分からない彼を待つより怪しまれないだろう。
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