祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
たたん、と軽やかに階段を駆け降りる足音がした。
のろのろとふり向いたシルフィスは、思わず一歩退いて、ガン、と腰をカウンターに打ちつける。
痛みは感じなかった。驚きの方が大きくて。
大きな布の袋を斜め掛けしたナーザの、その肩の上に、生首が浮いている。長い栗色の髪を垂らした、若い女の首だ。
「じゃあね、イスト」
「ユーリーによろしくね、ナーザ」
ナーザと生首が、シルフィスの目の前を通っていく。
「行ってくるわね、イスト」
生首の女がしゃべった。ウインクして。
緑の目の、美人だった。推定年齢二十歳。生首だが、笑顔が、少女のように可憐だった。
「いってらっしゃい、リシュナ」
イストは当たり前のように生首に片手を振る。
ナーザと生首が出て行ったドアが揺れているのを、シルフィスは呆然と見つめていた。声が出ない。
(……飛頭……)
その呪われた存在については、書物で読んだことがある。本物は初めて見た。
当然だ。その呪法は百年以上前に禁じられ、今では失われている。──人を、首だけの姿で永遠に生かす呪い。
のろのろとふり向いたシルフィスは、思わず一歩退いて、ガン、と腰をカウンターに打ちつける。
痛みは感じなかった。驚きの方が大きくて。
大きな布の袋を斜め掛けしたナーザの、その肩の上に、生首が浮いている。長い栗色の髪を垂らした、若い女の首だ。
「じゃあね、イスト」
「ユーリーによろしくね、ナーザ」
ナーザと生首が、シルフィスの目の前を通っていく。
「行ってくるわね、イスト」
生首の女がしゃべった。ウインクして。
緑の目の、美人だった。推定年齢二十歳。生首だが、笑顔が、少女のように可憐だった。
「いってらっしゃい、リシュナ」
イストは当たり前のように生首に片手を振る。
ナーザと生首が出て行ったドアが揺れているのを、シルフィスは呆然と見つめていた。声が出ない。
(……飛頭……)
その呪われた存在については、書物で読んだことがある。本物は初めて見た。
当然だ。その呪法は百年以上前に禁じられ、今では失われている。──人を、首だけの姿で永遠に生かす呪い。