祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 にらみあった沈黙の後、ふと怒りの色を緑の目から消して、静かに、リシュナが語り始めた。
「サーカスのお客の中にナーザを見たとき、すぐに雷帝の生まれ変わりだと分かったわ。だって、髪も顔も同じなんだもの」
 シルフィスは無言でリシュナの言葉を聞いた。目を逸らさずに。
「信じられなかった。叫び出しそうだったわよ。あたしはこんな姿で苦しみ続けているのに、あたしをこんなにした本人はのうのうと生まれ変わってるのよ? 健康そのものの少年に。
神様なんて本当にいないんだと思った。それからの一日一日は本当に長くて辛くて苦しかった。──サーカスの団員に、殺して、と頼んだこともある。知ってる? 岩か何かで潰してしまえば、飛頭は死ぬのよ。サーカスの人たちは、あたしを可哀想だと思ってくれて、案外優しかったけど、あたしの願いを聞いてくれる人はいなかった。いろいろ理由はあったと思うけど、いちばんの理由は、祟りを心配したみたい。もとは人でも、異形だものね」
 リシュナは笑った。緑の目に、薄く涙が滲んでいた。
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