祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
「……次の町での興行を終えて、旅立ちの支度をしているときだった。あたしは何もできないから、馬車の窓からそれを見ていた。雨が降っていて、雨の中にナーザが立っていた。ナーザは団長と話していたわ。ナーザが差し出した包みを団長が受け取って、それから、団長があたしのところへ来たの。『新しい主人が見つかったよ。おまえに同情したらしい。優しそうな子だから、おまえもその方が幸せだろう』──団長はそう言って、あたしを鳥かごに入れてナーザに渡したのよ」
 場面が幻のように浮かんで、シルフィスは思わず青い目を瞬かせた。
 浮かんだのは──金髪から滴る雨の雫を頬に伝わせるナーザと、憎しみと怒りを緑の目に込めて彼を見つめるリシュナ。
< 62 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop