祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
「エルラドまで、十日以上かかった。ずっと野宿だった。ナーザはほとんどしゃべらなくて、あたしは毎晩彼を罵ったわ。殺されても良かったもの。ナーザは黙って罵られていたけど、ある晩、ごめんなさい、と言ったの」
 リシュナは目を閉じた。涙がポロリと頬に零れた。
「ぼろぼろ泣きながら、ごめんなさい、を繰り返したの。そのとき初めて、ちゃんとナーザを見たわ。痩せて、顔色も悪かった。あたし、自分が食べないからそれまで気にしなかったんだけど、彼、道中ろくに食べてなかった。彼、何の言い訳もしなかったわ。許してほしいとも言わなかった。ただ、泣きながら謝った。そうして、俺、絶対に呪いを解く、って……」
 意地が折れて、シルフィスはリシュナの涙から、顔を背けた。
< 63 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop