祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 ひどい後悔が胸にあふれている。
 何をしたんだ、僕は。八つ当たりか。二百年を呪われて生きてきた女性に? 自分ひとりが辛いんじゃないと、ギルドで働いた四年間で学んだつもりだったのに。
 そう、ナーザは雷帝の転生者ではあっても雷帝ではない。彼は海に開けた町でのびのびと育った当たり前の少年だ。そんなの彼を見てればすぐわかる。リシュナがナーザに心を開くのに、たいした時間は要らなかったろう。
 そして──だから、自分もギルドに何も報告せず、行こうと思った。
「……君のカンはどうでもいいけど」
 リシュナを見られないまま、シルフィスは言葉を押し出す。
「僕は、彼のことを王宮に告げ口するつもりはないし、『銀の子猫』のミストレスとの約束は守るよ」
 呪いを解く方法がわかったら、ナーザに知らせる。
「信じられるの?」
「ミストレスは信じてくれた。だから、僕に君たちのことを話したんだろう?」
 リシュナの、考え込むように自分を見ている視線を感じる。
「信じてほしい」
 シルフィスは言った。僕は信じてくれる人を裏切ったりしない。そうなってしまったことは……あったかもしれないけど。
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