祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 背後でドアがノックされた。
「シルフィス? 夕食ができたよ」
 ナーザの声だ。
 シルフィスは強張った頬をてのひらで撫でた。もう一度、こつこつ、とドアが指で叩かれる。シルフィスは体ごとふり返ってドアを開けた。
「夕食……」
 そう言いかけて、ナーザは口を閉じた。シルフィスの顔に一瞬目を止め、それから、天井そばに浮いているリシュナを見た。
「……どうしたの?」
 尋ねたナーザに向かって、リシュナがまっすぐ宙を滑った。ナーザはリシュナを胸に抱きとめ、戸惑った表情をシルフィスに向ける。が、
「ま、いっか」
 にししっ、の笑顔。
 そして、自分の胸に顔を埋めてしまったリシュナの頭をよしよしと撫でている。どっちが二百歳でどっちが十五歳やら、だ。
 リシュナが少し落ち着くと、ナーザは屈託なくシルフィスを見た。
「夕食できたから、食べて、シルフィス」
「……今、リシュナには話したんだけど、せっかくの家族団欒を邪魔するのも悪いので、僕はもう発とうかと思うんだ……」
「構わないのに」
 ナーザは軽く首を傾げる。金色の髪が、ふわ、と揺れた。
「でも、夕飯は食べてってよ」
「いや……」
 断ろうと口を開いたとき。
「ナーザ!」
 呼ぶ声がして、部屋の全員がそちらを向いた。
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