祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 ユーリーが立ち上がった。体を丸めた少年の肩に手を置き、顔を覗きこむ。顔は、両手で覆われていたけれど。
「それ、どんな魔法か、覚えている?」
 答えはない。ユーリーの声が厳しくなる。少し、震えていたけれど。
「思い出しなさい。少しでも。どんな魔法かわかれば、それを阻止する方法だって分かるかもしれない。体の一部さえあれば、復活が可能なの?」
 静まり返った部屋に、ナーザが重く呼吸する音だけあって。
「……足りない部分は、補ってやるんだ」
 やがて、かすれた声が途切れ途切れに語り出す。
「手、足、頭蓋……パーツひとつに、一人殺して……魔法陣を描いて、そこに血の乾かないうちにパーツを人の形に並べて……甦らせたい人間の遺した体の一部をその上に置く。ホルドトが、呪文……を空中に書くと、それが、並べたパーツに吸い込まれていって……」
 言葉が途切れた。
 続きを促す声はなかった。
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