祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 ナーザの体が震える。
「俺は、その魔法が見てみたくて、そのためだけに、何人も、殺したんだ」
 ユーリーがナーザの頭を抱き締めた。
「わかったわ。雷帝を甦らせるには、遺髪を見つけて、たくさん人を殺して新しい体を用意してやる必要があるわけね? それをさせなければ、復活は叶わない」
「遺髪は発見された、と考えて動いた方がいいと思います」
 きっぱりとシルフィスは言った。
 ユーリーがふり向いて、シルフィスを見上げる。
「じゃあ、できることは、新しい体を用意させないこと……?」
「今からレイシアに向かいます」
 羽織った外套の前紐をシルフィスは手早く結んだ。
「近くで馬を手に入れられますか」
「待って。俺も行く」
 母親の腕をそっと押しのけて、ナーザが言った。顔を上げ、立ち上がる。その視線を受けて、シルフィスは自然に頷いていた。
「よし、一緒に行こう」
 この少年は行かなければならないのだ。僕と同じように。
 古の王はその終焉の地に赴く。過去の自分の亡霊を甦らせないために。
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