祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 ナーザの顔は少しだけ明るくなっていた。
「間に合うかもしれない。──思い出したんだ。ホルドトが言ってた──他はどうでもいいけど、心臓と眼球は、特別だって。戦士の心臓と魔法使いの眼球じゃないと、うまくいかないって。それも、レベルが高くなきゃだめなんだ。そんな人たち、そんなに都合よく揃わないじゃん?」
 場の全員の表情が緩みかけた。
 なるほど、とシルフィスも。だが、次の瞬間、全身が凍りつく。
「いや……レイシアには……戦士と魔法使いがすでに向かった……」
 レベルは、高い。『青鷺の宿』の戦士と『歌うフクロウ』の魔法使いだ。
 目眩がした。まさか、と。
 なぜ、彼らはレイシアに行ったか。王の夢見の夢が『黒白の書』による雷帝復活を告げたから──だ。
 誰も疑問を持たなかった。この四年、どんな魔法使いも探れなかった『黒白の書』の在り処が、夢見たちの夢に現れたことに。夢見の能力の高さとその夢の内容の衝撃が、疑念を起こさせなかった。
 まさか、罠だったのか? 王宮に選ばれるほどの、戦士と魔法使いを誘き寄せるための。
 ハザンの顔が浮かんだ。戦士の心臓──彼の心臓。
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