猫かぶりなカップル
「だから、くるみには悪いんだけど、名字もいっくんの名字になるよ~。あと、家もいっくんの住んでいる所にしようと思ってるの。ここから2時間くらいのところなんだけど」



嬉しそうにそう言うママ。



頭がパニックになってしまった。



ちょっと待って。



意味がわからないよ。



ちょっと…苦しい。



あたしのことを受け入れる?



ママですら、あたしのこと、全然分かってないのに?



ママ、勝手すぎるよ。



一番あたしのことを分かってほしいママに、愛されたいママに、抱きしめてほしいママに。



あたしは何もしてもらえていないと、強く寂しさと辛い気持ちがあふれ出した。



気がついたら涙もあふれていて。



困惑した様子のママがにじんで見える。



やばい、ママの前でこんなに泣くの、いつぶりだろう…。



何も考えず家を飛び出した。



「くるみ!?」



ママの驚いた声がするけど知らない。



電車に乗って遠く、遠くへ。



適当に駅に降りて、適当に道を進む。



無心で歩いていると、自然と早足になる。



「いたっ…」



途中で足をひねってしまった。



「いったーい…」



なんかもう…ボロボロだ。



完全に途方に暮れてしまったあたし。



日もだんだんと落ちてきた。



心の中、つらい気持ちでいっぱいだ。



ママに、娘として愛されていることは分かっている。



だけど、いつもどこか空虚感があって、多分…あたしはいつも、自分に自信がない。



だから自分のことも嫌で仕方なくて。



あたしは誰の一番でもないのだと、そんな風にいつも感じてる…。



誰かに話を聞いて欲しいのに。



友達なんて全然いない…。



柚子ちゃんは…多分お仕事。



神城。



神城が頭の中にぽんと浮かんだ。
< 38 / 92 >

この作品をシェア

pagetop