猫かぶりなカップル
「もしもし? どうしたの?」



電話の向こうの声はこっちには聞こえない。



話すうちに、柚子ちゃんが段々と嫌そうな顔をし始めた。



どうしたんだろう…。



「はい、はい。…わかった、うん、はいはい」



柚子ちゃんが電話を切った。



それからあたしに両手を合わせて申し訳なさそうな顔をした。



「ごめん! 明日の地方ロケが早朝の時間に変更になっちゃって…。今から行かないといけない…」

「今から!?」

「本当にごめん!!」



柚子ちゃんが一生懸命謝ってくる。



寂しいけどしょうがないことだ…。



あたしは笑顔を作った。



「そっか…。残念だけどしょうがないね! 頑張って!」

「ありがとう…」



それから柚子ちゃんは驚きの早さで着替えと簡単なメイク。



あたしが横でその様子を感心しながら見てたら、家のインターホンが鳴ってマネージャーさんが来た。



柚子ちゃんと一緒にリビングに下りると、奏もそのタイミングで下りてくる。



「何事?」という顔をしてる。



柚子ちゃんが簡単に奏に事情を説明した。



「ふーん」



そう言ってから、奏があたしを見てニヤつく。



「じゃあ一晩俺と2人きりってわけか」

「…」

「楽しみだな?」



あたしをからかうのが楽しくてしょうがないって顔…。



奏と一晩一緒とか、考えてなかったけどあたしの心臓大丈夫かな!?



「じゃ、あたしもう行くね! お兄、くるちゃんに変なことしちゃダメだよ!」

「どうだかな」



やっぱあたしも帰ろうかな!?



そして柚子ちゃんは慌ただしく家を出て行った。



「じゃああたしはもう寝よーっと…」



そう言ってそろそろと柚子ちゃんの部屋に戻ろうとするあたし。



そんなあたしの腕を奏がグッと引いた。
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