猫かぶりなカップル
「奏くん…あたしのこと信じてないの?」



そう言って奏のシャツの裾を引いて、上目遣いで目を潤ませてみた。



「…あんま調子乗らないでね?」



奏は、あたしの頭をぐしゃっとして、あたしに合わせて猫かぶった口調で言った。



なんか可愛い…。



たまには奏のこともからかってみるものだ…。



それから寒さに耐えつつ電車に乗って帰宅。



お風呂に入って、ママの作り置きのシチューを食べた。



『お肉いつもより良いのだから味わって食べてね~』という置き手紙付き。



前に家に連れてきた彼氏と別れてからのママは、珍しくまだ新しい彼氏も出来ていなくて、気分も安定してる。



いつまでこの感じが続くか分からないけどね。



不安定になる前にあたしも早く大人になりたい。



ママの嫌なところは多いけど、嫌なところばっかりでもない。



あたしが大人になって家から出て行けば、もっとうまくママと付き合えると思うの。



ママの嫌なところをこうしてはっきりとあたしの感情で「嫌」と思うことができるようになったのも多分奏のおかげ。



今までは、認めれば1人になっちゃう気がして、ママを嫌だと思うことも出来なかった。



今は自分の感情を認めてあげられているから、心もずいぶん軽くなった。



奏が大好き…。



そんな奏とは、寝る前にも電話。



《で? 相合い傘の真相は?》

「まだ言ってるのー? 別に、傘忘れたスズナちゃんと一緒に傘入ってただけだよ」



男の子と一緒に入るわけないし…。



でも、女の子だとしても、あたしが演技無しで人に対して普通に親切にしてるのもあんまりないことだ…。



「あたしね、自分でもびっくりなんだけど、自然とスズナちゃんに傘入れてあげてたんだよね」

《へー。“あの”くるみがな?》

「ちょっと。“あの”ってどういう意味?」

《ははっ》



やっぱ意地悪だ!



でもあたしの性格を分かっていてくれる奏だから、一緒にいて居心地が良い。



ってやば、またくしゃみ出る…。



「はっくしょん!」と大きめなくしゃみ。



恥ずかし…。
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