猫かぶりなカップル
目の前には下からのアングルの奏の顔。



えっ? あたし…もしかして、お姫様抱っこされてる…?



「きゃああ!」



という黄色い歓声が聞こえる。



あたしを抱っこしたまま歩き出した様子の奏。



そのまま何だか奏の腕の中で安心してしまい、意識が遠のいて…。



廊下のざわざわとした声で目が覚めた。



えっと…。



全く何があったか分からないんだけど…今は保健室のベッドに寝てるっぽい?



あたし、風邪でダウンしたんだっけ?



廊下からは相変わらずざわざわとした声。



あたしを心配しに来たファンの子たちだと思う…。



もう一回寝ようにもちょっとうるさい…。



すると、一層ざわめきが強くなった。



ん?



と思ったら、奏の声がした。



「くるみちゃん起きちゃうと思うから、『しー』ね?」



まるで王子みたいな奏の声に、一気に廊下のざわめきがなくなる。



「みんなが心配してたことは伝えとくね」



奏がそう言うと、ぞろぞろと帰る音が聞こえ、足音が遠ざかっていった。



それから、保健室のドアをガラガラと開ける音が聞こえて、一人分の足音がこちらに近づいてくる。



奏だ…。



「大丈夫か?」



そう言ってベッドのカーテンをそっと開けた。



あたしは思わず布団を頭まですっぽり被る。



今絶対に顔色最悪だし顔ボロボロだもん!



見られたくない!



「起きたか」

「うん…」

「何やってんの?」

「いいの!」



あたしの言葉に、奏がため息をついて、あたしの足下に腰を下ろした。



「急に倒れるからびっくりしたぞ」

「あたしもびっくりした…」

「体調どうだ?」

「うん…ちょっとだるいくらい。今何時…?」

「昼休み」




昼休み!?



めっちゃ寝てんじゃん、あたし…。
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