猫かぶりなカップル
「手小せえな」

「そう?」

「ん」



奏があたしの手に自分の手を重ねた。



奏の手は大きい。



なんだかぐっと愛おしい気持ちがこみ上げて、奏の唇にちゅっとキスした。



「急にどうした?」

「んーん。好きだなって…」

「可愛いな…」



可愛いだって!



奏にそう言われるのが何より嬉しい。



「奏、あのね?」

「ん?」

「あたし…猫かぶってない姿、みんなに出していきたいなって思ってて」

「…」



奏が少し驚いた顔であたしの顔を見た。



あたしは奏の手をぎゅっと握る。



「あたし、今まで無意識に愛されたくて猫をかぶりまくってた」

「ああ」

「でもね、奏が現れて、柚子ちゃんと仲良くなって、あたしのそのままを受け入れる人もいることがわかった」



あたしの言葉に、奏は何も言わずにあたしの後頭部を軽く撫でた。



あたしはそんな奏にニコッと笑う。



「嫌われるのが怖くて、誰からも好かれる子を演じてきたけど、勇気を出して、少しずつでも自分を出していきたい。もし嫌われても、居場所があるってもうわかったから」



これがあたしの決意。



自分を出すのって怖いけど。



あたし、強くなりたい…。



だってあたしには居場所があるもん。



強くしてくれる人がいるから。



奏がふっと優しい顔で笑った。



それからあたしの顔を両手で包んだ。



「くるみなら大丈夫だろ」

「ありがと…」

「みんなに好かれてるくるみも“杉谷くるみ”の延長ってこと、忘れんじゃねえぞ」

「うん…」



奏がもう一度笑って、あたしを優しく抱きしめた。



子供をあやすみたいに、愛しく、大事に…。



こんなに愛されているだけで、あたしはこれから全てのことが大丈夫だと思った。
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