猫かぶりなカップル
「くるみちゃん、大丈夫?」



スズナちゃんが心配そうにあたしの顔をのぞき込む。



嘘偽りのない表情。



あたしのことを大切に思ってくれている…。



うん、あたし、自分に自信を持とう。



「あたし…必死に隠してたけど、本当は、性格悪いよ…」



ぽつんとそう言った。



スズナちゃんがあたしの顔をきょとんと見る。



「そうなの? そんなくるみちゃんも見てみたい」



スズナちゃんがそう言って笑った。



その言葉と表情に、気づいたら泣いてしまってた。



あたし、受け入れられてるんだ…。



奏があたしの隣に来て、あたしの頭をぐしゃっと撫でた。



あたしは言葉を続ける。



「優しいフリをして、それも全部好かれるためだったの。全部、みんなに嫌われたくなくて猫をかぶってた…」

「そうだったんだね。でも今、こうして教えてくれて、あたしはそれが嬉しいよ」

「今まで本当の自分、出せなくてごめん…。騙してごめん」

「どんなくるみちゃんもくるみちゃんでしょ? 本当に優しいからみんなに優しくできるんだよ。むしろ、私たちがくるみちゃんに嘘をつかせててごめんね」



みんな、どうしてこんなに優しいんだろう…。



こんなあたしに、どうしてこんなに優しくできるの?



ううん、こんなあたしなんて言っちゃだめだ。



あたしを受け入れてくれるみんなのことを否定することになる…。



泣き止むことのできないあたしを、奏がそっと抱きしめて、頭の後ろをぽんぽんとなだめてくれる。



ずっと心にかかっていてあたしを苦しめていた靄が、あたしからさあっと溶けていくのを感じた。



「てことは、王子も本当は性格悪かったり…」



誰かが言った。



あたしは顔をあげて奏の顔を見た。



「どうかな?」



奏はそう言いながらにこっと笑った。



「って、くるみちゃんが好きになるのにそんなわけないか~!」



そんな声があがって、笑いが起きる。



奏の素の顔だけは…あたしだけのものにしていいかな?



なんだかこの時間がすごく嬉しかった。
< 88 / 92 >

この作品をシェア

pagetop