独占欲強めな御曹司は政略妻のすべてを奪いたい
「素敵なお部屋……」

とても日当たりのよい清潔感のある部屋だった。

「気に入った?」

「はい、ありがとうございます。あの、透哉さん、私はまだ花嫁修業を始めて二ヶ月で、家事を完璧にこなせないかもしれません。でも精いっぱいがんばるので、どうかよろしくお願いします」

私は透哉さんに頭を下げた。

すると彼は少し困った様子で、そっと私の肩に触れる。

「俺は家政婦を雇ったわけじゃない。完璧な家事なんて求めていないよ。琴子がここにいてくれるだけで十分だ」

優しく声をかけられ、胸がきゅっと締めつけられた。

私個人に対して特別な感情を持っていないはずなのに、透哉さんは本当に思いやりのある人だ。

「ありがとうございます……。それからこれ、少ないですが……」

私は持参したバッグの中から白い封筒を差し出した。

その中には二百万円ほどの現金が入っている。

実は昨日、父にもらった思い出の腕時計を専門業者に買い取ってもらい、お金に換えたのだ。本当は手もとに置いておきたかったけれど、真崎家にお金を返すほうが大事だから迷いはなかった。

< 34 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop