独占欲強めな御曹司は政略妻のすべてを奪いたい
「ああ……うん、お疲れさま。また明後日」

森窪さんも私に合わせてそう口にすると、すぐに車を発車させる。

車が見えなくなると、私は透哉さんを振り向いた。

「おなか空きましたよね。すぐに晩ごはんを作ります」

「いや、琴子も疲れているだろう。なにかデリバリーでも頼もうか」

透哉さんはさりげなく私の背中に手を当てた。

その途端、私は勢いよく彼を振り払ってしまう。

「琴子?」

「す、すみません」

酔いは覚めていたけれどお酒の匂いに気づかれそうで、私は露骨に透哉さんから離れた。

そんな私に彼は面食らっている。

「アルバイトで汚れてしまって……」

下手な言い訳をすると、彼の不可解な視線を感じたけれど、彼はそれ以上なにも言わなかった。

明後日のシフトが憂鬱でたまらなかった。

森窪さんがどうしてあんなことをしたのかわからなかったし、今日のように店でお酒を飲まされるなら体力的にもきつい。お金を稼ぐのは大変なことだと、身をもって痛感した。高時給で楽な仕事などありえないのだ。考えなしに飛びついた自分が世間知らずだった。


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