独占欲強めな御曹司は政略妻のすべてを奪いたい
「まさか。夫はいつも通りでしたけど……」

たしかにあのとき透哉さんはそばにいたけれど、穏やかな彼が窓を叩くなどありえなかった。

「ほんと? 旦那さんあのあとなにも言ってなかった?」

「はい、なにも」

するとそのとき、バーカウンターのほうが騒がしくなった。

バックヤードから視線を向けると、スーツ姿の長身の男性が躊躇なくカウンターのスイングドアを押して入ってくるのが見える。

「え?」

男性は一直線に私のもとにやってきた。

「琴子、こんなところでなにをしている? カフェで働いているんじゃなかったのか?」

心臓が止まるかと思った。

やってきたのは透哉さんだった。

闖入者からとっさに私を庇おうとした森窪さんは、私の肩に触れている。

「妻に触るな」

透哉さんは強引に私の腕を引っ張り、森窪さんを低い声で牽制した。

スーツのジャケットを脱ぎ、私の体を覆い隠すように肩にかける。

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