隣の圏外さん


「すみません、写真を撮ってもらいたくて。お願いしていいですか?」

 ぬっと人が現れた。

 確か、隣のクラスの子だ。


「はい。もちろん」

 私はそう答えてカメラを受け取り、カウントダウンをしてからシャッターを押す。

 それを梓は横から見ていた。


「ありがとうございました。よければお礼におふたりも撮りましょうか」

 カメラを受け取りに来た人が、私が手に持っているカメラを見ながらそう言った。


「えっ」

 無意識に声が出てしまった。


 私のカメラのデータには、既に梓とのツーショットが山ほどある。

 凛ちゃんが二人三脚のときに撮ってくれた写真だ。


 だ、大丈夫だよね、渡しても。

 わざわざ確認したりしないだろうし。


「倫太郎とは嬉しそうに撮ってたのに?」

 梓がムッとした表情を見せた。


 私が躊躇したので、嫌がっているのだと勘違いさせたかもしれない。


「そうじゃなくて。今日いっぱい撮ったから容量が残ってるかなって思って。たぶん大丈夫。お願いします」

 梓に嘘の弁明をしつつ、隣のクラスの子に自分のカメラを渡した。


 常盤君と撮っているところを見られていたんだ。

 梓も美人の先輩と撮っていたじゃん、という言葉は呑み込んだ。

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