隣の圏外さん
「それよりさ、本名をフルネームで登録してんの危ないよ」
「へ」
「もろに女の名前だし、そういうの狙った痴漢もあるんだからもっとわかりにくいのに変えとけ」
真剣な顔つきだ。
「そうなんだ……わかった、ありがとう」
変えておこうとスマホを取り出す。
「あと普段使わないときはちゃんと受信設定オフにしておけよ」
「うん。なんかお母さんみたいだね」
「誰がお母さんだ、こら」
その言葉に笑ってしまいつつも、スマホを操作する。
「ちなみにさっき連絡先の交換をしたからオンになってただけでいつもはオフにしてるよ」
「オフにすんの忘れてたら意味ねーじゃん」
ごもっともだ。
「あ、オフにすんのちょっと待って」
寺元梓が自分のスマホを取り出した。
また何か送ってくるのだろうか。
「せっかくだし」
そう言って送られてきたのは連絡先だった。
「永瀬も送ってよ」
状況に戸惑いつつも言われた通りに自分の連絡先を送る。
「ん。ありがと」
受け取れたようで寺元梓はスマホをしまって教室を出ていった。
普通に会話してしまった。
避けていた時期などなかったかのような態度でなんだか変な感じだ。
それに、覚えていてくれたってこと……だよね。
そのことに満たされた気分になってしまう自分がいる。
あんな風に言われていたのに、私の心は彼を憎みきれていなかったようで少し情けなくなった。