隣の圏外さん


「去年からあのようなアナウンスを始められたのって、何かきっかけがあったんですか?」

 少し気になったので、片付けのための手を動かしながら田中先輩に尋ねてみた。


「あー、まあ大したことじゃないんだけどね」

 そう前置きして、田中先輩は話を続ける。


「勉強を放り出して大会の練習をしていたら、親に『そんなに練習して、アナウンサーになるつもりなの?』って言われてさ。そんなつもりは毛頭なくて、ただ逃避していただけなんだけど、なぜかその言葉が引っかかっちゃって」


 田中先輩は頭を掻いた。

 私はじっと田中先輩の話に耳を傾け続ける。


「別に嫌な言い方をされたわけでもないし、嘲笑も含まれていなかったとは思うんだ。でも、勝手に言外の意味を想像してしまったんだよね。……なんとなく、親の考えていることって伝わってくるじゃん。そうすると『あんたには無理だけど、そんなこと考えていないわよね?』って言われた気分になっちゃってなんかイライラしてさ。それで溜まっていた鬱憤が、体育祭で爆発しちゃったってわけ」


 田中先輩は舌を出してはにかんだ。

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