隣の圏外さん
嫌なんだ、私は。
身の程をわきまえないで、自分がそんな風に感じているとは思いたくなかった。
だから、わからないという結論を盾にして、深く考えないようにしていたのかもしれない。
今だって、梓に触らないでほしいなんて、そんな分不相応な気持ちを抱いてしまう自分が嫌になる。
彼女でもない人間がこんなことを考えるなんて、鼻で笑われても仕方がないだろう。
「大丈夫?」
凛ちゃんが私の顔の前で手を上げ下げしている。
「わ、ごめん。ぼーっとしてた。どこから回ろっか」
慌てて笑顔で取り繕った。
「行きたいところある?」
「私、放送部の先輩のクラスに行きたいな」
「じゃあまずはそこにしよう」
「ありがとう」
もしかしたら、凛ちゃんは私がぼーっとしていた理由に気がついたかもしれない。
それでも、そのことを触れずにいてくれたのが今は有り難かった。