隣の圏外さん


 最後の1発を打とうとしたところで、後ろから声がした。

「打つときに勢いをつけすぎ。力んでいるから銃口がぶれる」


 梓だ。近い。


 突然の登場に驚いていると、梓はあろうことか、背後から手を伸ばしてきた。

 私の銃の位置を調整している。


 梓の胸らへんが、私の背中に当たっていて、そして梓の呼吸がわかるくらいに近くて、ドキドキする。


 梓には申し訳ないが、集中できなくてかえって失敗しそうだ。


「よし。さっきまでの感じからしてこの位置だな。そのまま落ち着いて、そっと打ってみて」

 梓はそう告げて、そっと離れた。


 これで落ち着けると思う方がどうかしている、と心の中で突っ込んだ。

 それでもどうにか冷静になろうと、できるだけ手元を動かさないようにひと呼吸おく。


 そしてそのまま気合を入れることなくスッと指を引くと、おもちゃの銃から出た弾は的の真ん中にくっついた。


 バッと振り返ると、梓は温かく笑ってくれる。


 梓のその優しい顔を見て、好きだなあ、と思った。

 好きなのだ、私は。梓のことが。

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