隣の圏外さん


「で、どっちなの」

 凛ちゃんにずいと迫られた。


 どっち、とは。何と何の話だろう。

「どっちって?」

 心の中で思ったのと同じように、そのまま疑問を投げかける。


「寺元君と倫太郎君のどっちなのか、に決まっているでしょー!」

 小声ではあるが、力んでいて迫力が凄い。


「梓だよ」

 どうして常盤君が出てくるのだろうと思いつつ答えた。


「やっぱりそっちかー! 夏休みにショッピングモールで会ったときは、倫太郎君といい感じなのかなって思ってたんだけど」

 凛ちゃんはおでこに手を当てている。


 あのとき一緒にいたからか。

 常盤君とは、ばったり出くわしたに過ぎないけど、そういう風に見えたのかなあ。


 凛ちゃんは続ける。

「そしたら、花火大会で結衣子が寺元君といるのを見かけたって、クラスの女の子から聞くしさー。私、何にも知らないし、結衣子からじゃなくて他の子からそのことを聞いて、寂しかったんだからね」

「ご、ごめん。あのときはまだ自分の気持ちを自覚できていなかったのもあって」


 私がそう言うと、凛ちゃんは手を左右に振った。

「いーよいーよ。教えてくれてありがとう」


 知っていたのに、そっとしておいてくれたんだな。

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