隣の圏外さん


「感情が入りすぎ。俺、調べたけど、解釈をある程度は聞き手に任せて、シンプルに読んだ方がいいらしいよ」

 私の朗読を聞いた倫太郎君から指摘を受けた。


「えっ。倫太郎君、詳しいね。ありがとう、気をつける」

 その小説の世界にどうしても感情移入してしまい、それが表に出すぎる嫌いがある。

 抑えないと。


 私がもう一度、できるだけ淡々と、抑え気味に読む。

 倫太郎君に良くなったと言ってもらったので、一旦私の番は終わりにして、次は倫太郎君の朗読を聞く。


「逆に倫太郎君は滑舌が良くて上手いけど、お経みたいになっているよ。感情は乗せなくても、もうちょっと音域を広く使った方がいいかも」

 私がそう言うと、倫太郎君は顎に手を当てて、再び原稿を見た。


「どこに抑揚をつけたらいいのか、わからない」

「基本的に名詞はそのままの方が良くて、それ以外の副詞とか形容詞とかを立てる感じがいいよ。前に田中先輩からそんなアドバイスをもらったから」


「ふーん。こんな感じ?」

 常盤君はそう言って、また朗読し始めた。


 うん、随分と良くなっている。

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