隣の圏外さん


「嬉しいときは、ちゃんと喜ばなくちゃ。自分の感情は大切にした方がいいと思う」

 私がそう言うと、倫太郎君は不思議そうな顔をした。


「私、朗読する部分をどこにしようか迷っていたとき、ずっといろいろ考えていたんだけどさ」

「うん?」

「やっぱり、自分が1番心を打たれたシーンじゃないと、気持ちが乗らなかったんだよね」

「うん」

 倫太郎君は相槌を打ちながら、聞いてくれる。


「聴く人に感動してもらおうと思って選んでも、そこに自分の感情が伴っていないと、きっと意味がないんじゃないかって。例えば私と倫太郎君が同じ本を読んだとして、1番良いと思う文ってたぶんそれぞれ違うでしょ?」


「まあ、そうだろうね。趣味も違うし」


「だから、誰かに迎合するんじゃなくて、まずは自分の気持ちを大事にしようって結論を出したんだ。自分の気持ちがこもっていれば、わずかでも、何か伝わるものがあるはずだって思うから」

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