隣の圏外さん


「そう言えば何部に入るか決まった?」

 前の席の凛ちゃんに訊かれた。


「まだ迷ってる」

「何と何で?」

「茶道と放送。茶道は和菓子を食べられるけど、正座が思っていたよりきつくて」

「じゃあ放送にするの?」

「放送は……」


 自分の気持ちに正直になるならば、入りたいのは放送部の方だ。

 やってみたいという気持ちは充分にあるし、無理なく続けられそうな雰囲気もいい。


 ただ、いまひとつ勇気が出ないというか、自分には合ってないかもしれないと考えて尻込みしてしまう。

 何か新しいことを始めようとするとき、悪い方に思考を巡らせてしまうのが癖で、笑い者にされたらどうしようとか、全校生徒に醜態を曝してしまったらどうしようとか、そんな考えばかりが浮かんでくる。


「やっぱり恥ずかしいからもう帰宅部でもいいかなって思えてきた」

「ええ? せっかくなんだから1回入ってみたらいいじゃん」


 確かにやる前から諦めるのももったいないような気はする。


 煮え切らない態度でいると、横から声が聞こえた。

「俺、永瀬の声、聞き取りやすくていいと思う」


 驚いて寺元梓の方を見る。
 馬鹿にして言っているような様子でもない。

「やってみれば?」


 寺元梓の瞳を見つめ返すと、なぜかノーの言葉が出てこなくなった。

 だからと言って、はいじゃあやります、とすぐには言えない性分だけれども。


「う、うん。もっと考えてみる」

 口ではそう言いつつも、踏ん切りはついた。

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