隣の圏外さん


「ただいまー」

 帰宅してリビングに入ると、母親が寄ってきてくれた。


「お疲れさま。どうだった?」

 何気ない様子で尋ねられる。


「あのね、奨励賞をもらえたの!」

「あら、凄いじゃない!」

 報告を聞いた母は、私の手を握って喜んでくれた。


「ふん、奨励賞くらいで」

 父親のそのひとことで水を差され、ほくほくしていた気分が一気に沈んでしまう。


 父は説教を続けた。

「そんなことより、勉強に集中しなさい。成績もさして良くないのに」


 ――そんなこと。

 その言葉を聞いて、ふつふつと怒りが湧いてきた。


 私にとっては、そんなことじゃ、ないよ。


 そう思ったときには、口を開いていた。

「お父さんが、私の将来を心配して、忠告してくれているのはわかるよ。でもね、何を大事にするかは、私が決めることだよ」


 父は何も言わずに黙って聞いている。

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