隣の圏外さん
「なんか脈ありそうじゃない? あのイケメン君と」
今日のお昼は凛ちゃんと食堂に来ている。
定食を受け取って席に着いた途端に凛ちゃんが口を開いた。
「イケメン君……?」
「ほら。隣の席の」
寺元梓のことを言っているのだろうか。
「いや。ないない」
凛ちゃんは寺元梓が私のことをどう言っていたかを知らないからそんな風に思えるのだろう。これには苦笑するしかない。
「えー? でも声っていう生まれ持ったものを好きって言ってくれるってさ、相性良いんじゃない? 遺伝子レベルで、みたいな」
「いや、好きとは言われてないから」
すかさずツッコミを入れる。
「似たようなものでしょ」
凛ちゃんはなぜか満足げだ。絶対に勘違いしている。
「私がぐずぐずしていて鬱陶しいから出任せを言っただけだよ。それに」
お味噌汁を飲む凛ちゃんをぼんやりと眺める。
うん。きっと寺元梓が付き合うのはこういう可愛い人だ。
「私みたいな人間は、対象外だと思うよ」
自分で口に出してみると思った以上に惨めである。
「え!? 何言ってんの。そりゃイケメン君はイケメンだけどさ、結衣子も負けてないくらい可愛いよ」
凛ちゃんの顔が綻ぶ。その目には曇りがない。
「……ありがとう」
本当のことは言えないけれど、凛ちゃんのことは大事にしよう。そう思った。