隣の圏外さん
「女の子っぽいデザインだけど、持ちやすい」
梓がシャーペンのグリップをふにふにと指で摘まんでいる。
私がそれをじっと見つめていると、梓が首をかしげた。
「返した方がいい?」
「ううん。気に入ってくれたのなら、梓にあげる」
「ん。ありがとう」
自分の持ち物を、好きな人が使ってくれている。
たったそれだけのことで、凄く心が満たされた。
もしあの先輩が梓の彼女なのだとしたら、これを見たら気分を悪くするかもしれない。
ごめんなさい。
心の中で詫びるだけの、ずるい自分だ。
それでも、梓に持っていてほしいと思うなんて。
そしてあわよくば、私のことを気にとめてほしいと思っている。
結局、英語に関しては、目の付け所や文法を教えることになった。
梓の言う通り、英語は本当にできないようだった。
梓にも、苦手なことはあるんだな。
教えてもらってばかりだから、自分もその恩を返すことができて嬉しい。
私たちはそのまま、日が沈む頃まで勉強を続けた。