隣の圏外さん
「昨日は急に行くのをやめちゃってごめんね」
「ああ。いいよ、気にしないで」
そのまま倫太郎君について行って、事務員さんに提出したのを見届けた後、お菓子の入った紙袋を差し出した。
「これ、昨日持って行くつもりだったやつ。ご家族と食べて」
「わざわざいいのに。ありがとう」
倫太郎君は受け取って、紙袋の中を覗いた。
「クッキーとマドレーヌだよ」
私がそう言うと、倫太郎はちょっと嬉しそうな顔になる。
「まじ? ありがとう」
甘いものが好きだと言っていたから、喜んでくれるだろうとは思っていたけど、実際にその顔を見て安心できた。
「それで。寺元との距離は縮められたの」
驚いて倫太郎君の顔を見上げる。
倫太郎は、どういうつもりで言っているのだろう。
まさか、私の好きな人が梓だってことに気づいて……?
「寺元が好きなんでしょ? 見ていたらわかるよ」
ビンゴだった。
倫太郎君って、なかなか鋭い。