隣の圏外さん
そして私と目が合った梓は、パッと踵を返してどこかへ行ってしまう。
「……っ」
追いかけようとして、右足が1歩前へ出た。
けれども、次の左足は出なかった。
追いかけて、何と言ったらいいのだろう。
訂正するのも、変な話だ。
今、勝算もないのに、告白でもするつもり?
心の中で自分にそう問いかけたところで、焦る気持ちがスッと落ち着いた。
「ごめん。タイミングが悪すぎた」
倫太郎君も予想外のことだったのか、困惑した顔をしている。
「ううん。大丈夫」
今いる渡り廊下には人通りがないからと、油断していたのは私だ。
それに、好きな人ではないと言っただけだ。
友人関係としては、何も変わるところがないだろう。
――その読みが甘かったと知るのは、後になってからだった。