隣の圏外さん


 部活終わりには、倫太郎君にも忠告を受けた。

 目ざとい倫太郎君は、梓と私の異様な雰囲気に気づいたらしい。


「半分は俺のせいだから、申し訳ない……けど、誤解を解けるのは永瀬さんしかいないよ」


 何も言わない私に、倫太郎君は発破をかけた。

「大会のときの永瀬さんはどこに行ったの」

 倫太郎君のそのひと言に、ハッとする。


 そうだ。

 自分の気持ちを大事にするって言っていた癖に。

 ぐずぐずしているだけでは、その逆ではないか。


 私は梓のことが好きで、前みたいに話がしたいのだ。


 勝算がないから、諦めるの?

 それは私の気持ちを大切にしていると言えるのだろうか?


 答えは、否だ。


「ありがとう、倫太郎君。おかげで決心がついたよ」

 私がそう言うと、倫太郎君はその意味を察したのか、穏やかな笑みを浮かべた。


「頑張って」

 ポンと頭に手のひらが下りてくる。


 こうして自分が逃げそうになったときでも励ましてくれる人たちがいて、私は幸せ者だ。


 やるべきことは、1つ。

 今月はバレンタインデーがある。
 そのときに、言おう。

 伝えよう、私の気持ちを。

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