隣の圏外さん
寺元梓とは中学1年生で同じクラスだった。
中学生にもなると、恋愛話に花を咲かせる人たちが増える。
私の周りも例に漏れずそうだった。
あれは秋のある日のこと。
部活に行くのに忘れ物をしたので教室に戻ると、サッカー部の連中が屯していた。
「なぁ、梓はー? うちのクラスの女子のベスト3」
「知らねえよ」
「もったいぶらずに言えって」
実はこのとき、私は少し寺元梓のことを意識していた。
だからその場で聞き耳を立ててしまったのだ。
「そういえばあの子は? 永瀬結衣子。たまに話してるの見かけるけど」
私のことだ。
思わずドキッとしてしまう。
「いや、ナシナシ。圏外でしょ」
あのときの衝撃が忘れられない。
結局教室の忘れ物は諦めて家に忘れたことにした。
そして次の日から私が彼と話すこともなくなり、冬になると寺元梓は転校していった。
苦い思い出だ。
だけど、まさか高校で再会することになろうとは。