隣の圏外さん


「あ、いらっしゃい」

 教室に入るなり、体験のときにお世話になった先輩が声をかけてくださった。


 今日は歓迎会ということで放送室ではなく空き教室で活動するらしい。

 机の上には既にお菓子やジュースが広げられている。なるほど、放送室が飲食禁止ということになっているからか。


 席に着いている人を見回すと、覚えのある顔があった。

「同じクラスだよね? A組なんだけど」

 声をかけてみる。

 彼は黒縁メガネをかけていて、とても背が高い。目立つので一方的に見知っている状態だ。


「そうだね。よろしく」

「よろしく。永瀬結衣子です」

常盤倫太郎(ときわりんたろう)です」

 恭しくお辞儀をし合う。


「ちなみに私は田中秋帆(たなかあきほ)です」

 体験でお世話になった先輩が名乗ったのを皮切りに、他の人たちも順番に名乗っていく。


「今年の1年生は2人かあ」

 全員が名乗り終えるやいなや、田中先輩が呟いた。


「十分でしょ」

「そりゃ急激に増えたりしないって」

「まあこれくらいが丁度いい気はする」

 他の先輩方が口々に話し合う。


「あ、そう言えば! 今度の地方大会出たい人ー」

 急に思い出したように田中先輩が言う。

 手を挙げたのは1人の先輩だけだった。


「相変わらず少なっ。1年生のふたりは? 試しに出てみない?」

「俺はパスします」

 横の常盤君が間髪を入れずに答える。早っ。


「あの。どういうことをやるんですか? 想像もつかないですけど」

 田中先輩に訊いてみる。

「いろいろな部門があるけど、とっつきやすいので朗読するだけってのがあるよ。他の部門は自分で考えた原稿を作らなきゃならないけど、朗読部門では指定された作品の中から好きな1編を選んで読み上げるの」

 なるほど。それなら私にも参加できそうだ。


「せっかくの機会なので、参加してみたいです」

 校内放送をするのとは違い、私のことを知らない人たちの前でやるからだろうか。恐怖よりも好奇心の方が勝った。

「わかった。申し込んでおくね。私も出るから、一緒に練習しよう」

 田中先輩に付いていただけるならば心強い。


 その後もお菓子を食べながら大会のことについていろいろと教えてもらった。

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