隣の圏外さん


 梓がくれたコーンポタージュの缶を握る。

 温かい。


 暗闇の中で梓についていきながら、どのように伝えたらいいのだろうかと思案する。

 手にある缶はずっと温かくて、迷子になりそうな私の心に寄り添ってくれているようだった。


 学校のすぐ近くにある公園に着くと、梓は自販機の前に立った。

「俺も何か飲む」

 梓はそう言って自販機を眺めた後、小銭を入れてホットココアのボタンを押す。


 それを見て、おそらくチョコレートは好きな方なのだろうと思った。

 それがわかって少し安心する。

 いっぱい貰って、食べ飽きていないだろうか。

 それともまだ食べていないから、ココアを飲む気になったのかな。


 ふたりでベンチに並んで座り、それぞれ無言で飲む。


 これを飲み終えたら、渡さないと。

 そう考えたら、どんどん緊張してくる。


 ああ、あとちょっとしか残っていない。

 一気にそのときが近づいたようで、心細くなる。

 それでも、冷めてしまう前に飲み干した。

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