隣の圏外さん


 無言で立ち上がり、空になった缶を自販機の横に置かれているゴミ箱に捨てに行く。


 まだ梓はまだココアを飲んでいる。

 私が戻って梓の前に立つと、彼はココアを飲む手を止めた。


 言わなくちゃ。

 梓だって、今日がどんな日で、どういう用事で呼ばれたかなんてわかりきっているはずだ。

 躊躇したって、意味がない。


 私はしっかりと梓の目を見て、ラッピングしたチョコレートマフィンが入っている紙袋を差し出した。


「はい、これ。わざわざ来てくれてありがとう」

 声が震えた。

 緊張しているのが表に出てしまって恥ずかしい。


「俺の方こそありがとう。永瀬から貰えるとは思っていなかった」

 受け取ってくれるようだ。

 それがわかってひと安心する。


 そして紙袋が梓の手に渡った瞬間、勢いに任せて言葉を発した。


「私、梓が好き」


 自分の声を聞いて、ああ言ってしまったんだなと実感した。


 梓は突然の告白に驚いたのか、静止して動かない。

 見つめ合っていると次第に顔が火照ってくる。


「あの、伝えたかっただけだから! もし彼女とか他に好きな人とかがいて迷惑だったらごめんね! それじゃっ……!」


 その場の雰囲気に耐えられなくなった私は、逃げるように駆け出した。

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